Columnコラム

トレッキングのメリットについて~生理的・身体的・心理的効果~

トレッキングを趣味として日常的に運動している方にとって、トレッキングをすることで得られるメリットを挙げるのは簡単なことです。

「山の上からの景色が素晴らしいから」

「山頂に立った時の達成感が気持ちいい」

「体を動かして汗をかくのは、健康にいいから」

人それぞれ、色々な回答があることと思います。

しかし、トレッキングを趣味にしていない方にとってみては、

「ロープウェイで登っても同じような景色は見れる」し、

「汗をかくならマラソンや他のスポーツでもいいのでは?」と思われることでしょう。

「何もわざわざ大変な思いをして、山に登らなくてもいいのに」 ということです。

そこで、私が考える登山のメリットについて、今回は深く掘り下げて説明したいと思います。

登山の魅力 -図らずも ”オプション” がついてくる-

登山をしていると、みんながそのためにわざわざでかけて行くようなオプションがついてきて、思わず「ラッキー!」と言ってしまう瞬間がたくさんあります。たとえばこんなことです。

満点の星空や流星

満点の星空を見るために”星が日本一きれいに見えるという街”へ旅行に行く人もいると思います。

でも登山をしていると、ふつうに流れ星に出くわすことがあります。「あ、今の流れ星じゃなかった?」「そういえば今日なんとか流星群が見える日ってテレビでやってた!」なんてことになったら、晩御飯のあと地面にマットを敷いて、寝袋に入って寝転ぶ。ピュンピュンと見える流れ星。わざわざ調べてきたわけではないのにラッキー、ということがよくあります。

流星群の日に当たらなくても、稜線上の見晴らしの良いテント場に泊まれば「星がありすぎて、もはや星座とかわからない」というくらいの星空に出くわすことがあります。

巨木や銘木、隠された森

「樹齢何百年」という銘木を見に出かける人もいると思いますが、そんな木にもふと出くわしたりします。「○○の木」なんてプレートが掲げられたり柵がしてあるなんてことはなくて、ふつうにその森でずっと生きている木。もし町にあったら“重要○○”なんて称号がもらえるだろうな~と思うような木。また観光名所になっても良いくらいの巨木や巨岩。それから、なんとも言えぬ雰囲気を持った原生林の森やいつか絵本で見たような森。

もちろん登山ガイドブックにも書いていなかったけれど、歩いてみたら、「ああこの場所にもう少しいたい」と思うようななんとも心惹かれる場所に出会うことがあります。

野生動物

野生動物は見たいと思ってもタイミングよく見られないので、それを目的に登山する人は写真家や研究者くらいのものだと思います。それでもふと、出会うことはたびたびあります。

登山道の上で道を譲らないカモシカ。岸壁から石を投げつけてくる猿。足元をすり抜けるオコジョやリス。白いガス(霧)の中に、ふといた雷鳥。 

特に哺乳類が野生のまま生きているところなんて、町や動物園でもみれません。こういう貴重な体験は予期せずおこります。

お花見や紅葉狩り

天然のお花見や紅葉狩りが、期せずしてできてしまうことも多いです。

紅葉のシーズンにはどこの観光地も大変混雑するので、渋滞や待ち時間を考えて旅行の計画を立てないといけません。

でも、山登りに行ったらたまたま紅葉の真っ最中、斜面は黄金のカラマツ林だった、ナナカマドで真っ赤だった、足元は色とりどりの紅葉や楓で敷き詰められていた、ということがよくあります。

山の中なら他の観光客もいないし、貸切状態でカラフルな世界を堪能できることがあります。

温泉、とくに秘湯

温泉に入るために旅行する人も多いですが、わざわざ行かなくても登山の後に近くの温泉で汗を流す人は多いです。ただ近いから寄ってみたら、ひなびた雰囲気が渋い秘湯だった、〇〇県から2時間かけて来る人もいるらしい、なんていうことがよくあります。

「こんな山奥、登山の用事でもないと来ることはなかっただろうな」と思うことがよくあります。こんなふうに、選ばずしていろんなものに出会える。新しい山に行くことで、知らなかった山里にも足を踏み入れることになった、そういう機会を与えてくれるのも登山のオマケでついてくるメリットの一つです。

こうみてみると、実に多くの人が自然やその恵みに触れたくて観光し、旅行していますよね。その切り取ったひと時、いち場面を楽しむために遠くからわざわざ出掛けてくる訳です。

それも良いのですが、登山はその核心部に直行するイメージです。わざわざそのために出かけなくても、いろんな経験が付随してくる。

登山をすでにしている人からすれば当たり前のことなのですが、こんなすてきなオマケがついてくるなんて考えなかったのではないでしょうか。

テーマをもって楽しめる

山の懐は広いですから、いろんなニーズの人々を満足させてくれます。山頂からの眺めやおいしいビールだけが登山の醍醐味ではありません。

高山植物から深まる世界

たとえば高山植物を見るのが好きな人も多いです。調べないで歩いていたら「あ、あった!」と見つけるだけでもうれしいものですが、ある短い季節に限られた環境でしか咲かない高山植物もあります。その花に会いに行く登山もひとつの楽しみ方です。

人間が栄養や温度を管理して咲かせるのではなく、野生の高山植物はその全部を自分で得てあんなにキレイな花を咲かせるわけで ー当然全ての野生の植物はそうなのですがー その世界は知れば知るほど興味深いものです。

また高山植物は山そのものである地質や地形や風、それを食べる動物といった環境と密接な関係をもって生活しています。

ここからまた植物と地形との関係、植物と動物との関連へと知識を広げて行、く楽しみの入り口にもなってくれます。

被写体の宝庫

山はまた、写真を撮ることが好きな人にとっても楽しいフィールドです。専門的な写真家は山でなくても世界中の大自然を知っているかもしれませんが、そうでない人たちにも素晴らしい被写体をおのずと用意してくれ、「ああこの瞬間をカメラに収めたい」と思わせてくれます。

なんとなくの登山から始まってカメラの楽しさに気づき、どんどん大きなカメラを買い直して山に登るようになった人は多いのではないでしょうか。

植物、動物、天気、人間、景色。何一つ一瞬たりとも同じもの、とどまるものがないことは頭では知っていても、その世界を目の前で繰り広げてくれる山は最高の被写体をどうぞ!どうぞ!と言わんばかりに提供してくれます。

限られたテーマパークではない

その他にも…絵を書くのが好きな人、人との新たな出会いが好きな人、濃密な人間関係が好きな人、孤独が好きな人、日本100名山制覇などを記録を更新していくことが好きな人。 誰も登ったことのない岩壁を登りたい人、都会での疲れをリフレッシュしたい人、ちょっとした冒険をしたいと思っている人…いろんなニーズの人を受け入れてくれます。

テーマパークのように限られた”遊び場”がだれかによって用意されていなくても、無限の遊び方ができるのです。それぞれがいろんな好みを追求できるフィールドがあり、それに出会えるのが登山の良いところだなと思います。

老若男女、そして健康

一生涯の楽しみになりうる

山はどんな年齢の人でもそれぞれに楽しみや価値を与えてくれます。これから成長しようとする学生にはさまざまな学びを与えてくれ、仕事で疲れた若者には自分の生活や人生を見直すような啓発を与えてくれ、お年寄りにはもっと健康で長生きしなさいと励ましをくれるような気がします。誰もが今の自分の歩けるコースを選んで、それぞれのペースで楽しむことができます。仕事が忙しくて一度は登山から離れても、気が向いたときにまた始めることができます。

一度始めたからといって毎月のように登山しないといけないわけでもないし、思い立ったときに行くことができます。

一度知ってしまえば、気軽に一生涯の楽しみとしていけるのが登山の良いところです。

健康のための目標となりうる

そのためには健康でなければならない、と思わせてくれることも重要です。

体がなまれば「もう少し普段から運動をしなければ」と気づかせてくれます。「もう一度あの山に登りたい」と思えば体力づくりの張り合いにもなるし、それは「病気にならないため」というネガティブな発想よりも前向きで希望にあふれた目標になりえます。

とうぜん、登山をすること自体が運動となり健康維持のために大いに役立ちます。その時、ルールに縛られたり競争をすることもないので、他人に合わせず自分の体と相談してムリなく楽しむことができます。

何歳からでも始められ、一度装備を揃えてしまえばかなり長く使うことができるのも登山の良いところです。

森林セラピー (生理的効果)

森林浴の効果として、ストレスホルモンの減少、副交感神経活動の活性化、交感神経活動の抑制化、収縮期・拡張期血圧、脈拍数の低下などの様々な効果が科学的に確認されています。

人類の祖先はもともと森の中で生活していたことが影響しているのだと思います。

登山においても、過度な運動負荷をかけず、自分自身のペースでゆっくりと森の中を歩くことで、その効果が得られると考えています。

また、これに加え、山の中で寝起きを続けることで得られる効果があります。

宿泊する環境によって異なりますが、山小屋やテントに宿泊するとテレビやPC、携帯電話などの情報機器に触れる機会が減ります。

それに加え、山小屋では消灯時間が9時頃ですので、早寝早起きの生活リズムになります。

現代人の夜型になりがちな生活リズムが、朝型に変わり、睡眠と食事のリズムが改善されると考えています。

運動による影響(身体的効果)

長時間の運動をすることで、血流が良くなり、汗をかくことで体に溜まった老廃物を排出することが出来ます。

また、血行不良・運動不足に起因する慢性疾患を改善・予防する効果があります。

これも、生理的効果と同様に、いきなり過度な運動負荷をかけず、十分な水分補給と共に運動することが大事です。

 さらに、登山と合わせて温泉に入浴することで、相乗効果も期待できます。

ストレス解消・リラックス (心理的効果)

登山・トレッキングに限りませんが、自然の中に入ると、物理的に日常から距離を置くことになり、日ごろのストレスを忘れることが出来ます。

ただし、混雑している登山コースであったり、観光地に隣接しているコースではその効果は薄くなるのではないかと思います。

また、登山経験が乏しい方にとっては、コース中の道迷いの心配や、岩場が怖い方にとっては危険個所の通過がストレスになり得ます。

心理的効果を得るためには、信頼できる仲間やガイドと一緒に登山することがポイントとなります。

 登山を計画する上で、この3つの効果を念頭にしている、していない。

それだけでも、全く中身の違う登山になると私は思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。